自然と文化に触れながら、島しょ地域の明日を考える!
東京島エコツーリズム 開催レポート③ 八丈島編

2022.12.28

2022年11月〜12月、「あしたの東京プロジェクト」の第二弾となるイベント「東京島エコツーリズム」が開催されました。美しい海と自然に恵まれる大島、神津島、八丈島を舞台に開催された同イベントは、それぞれの島の魅力を「学ぶ」「ふれあう」「楽しむ」「守る」をテーマに体感できるエコツアーです。本記事では、2022年12月3日〜4日に開催された八丈島でのツアーをレポートします。

島の歴史ある伝統工芸にチャレンジ 「黄八丈織物体験」

伊豆諸島の中でも南部に位置する八丈島。東京から飛行機で約1時間と好アクセスでありながら、穏やかな気候と美しい海、ヤシの木やハイビスカスが織りなす南国風の情景により、リゾート地として人気を集める島です。

そんな八丈島の伝統工芸品に、「黄八丈きはちじょう」があります。黄、樺、黒の3色を基調とした絹織物で、島に自生する植物の染料を使用。渋みある色彩と優美な光沢が特徴です。江戸時代には幕府に貢納布として上納されたほか、庶民の間でも人気を博しました。一説では「八丈島」の名前の由来も、黄八丈にあるといわれています。

今回企画されたアクティビティの一つが、「黄八丈織物体験」です。黄八丈の民芸品を製造・販売する「八丈民芸やました」に、参加者は集合しました。日頃から観光客に向け織物体験を提供する同施設で、ガイドを務めるのは織物歴15年の鶴牧由佳子さん。織機の前に座ったら、さっそく体験が始まります。

経糸たていと緯糸よこいとを交差させていく作業は、とても複雑です。手と足を駆使しておさ、踏み木を動かしますが、手順を間違えるとねじれなどの原因に。織り方には平織と綾織など様々な手法があり、糸の色、間隔、織り方を組み合わせることで、オリジナルのデザインが作れます。参加者が作った黄八丈は、後日自宅へと郵送。それぞれの個性が表れる仕上がりに、参加者同士の会話も弾んでいました。

長い年月を経て、人の手により守り抜かれた黄八丈。近年は生産者が減少しているようですが、こうして多くの人に伝えられることで、伝統文化として保存されているのでしょう。

島の風土を香りで楽しむ 「八丈島酒造見学」

次に訪れたのは、大正時代に創業した島最古の蔵元「八丈島酒造」。八丈島では焼酎が名産物の一つになっており、「八丈焼酎」「島酒」の名で親しまれています。私たちを迎えてくれたのは、酒造4代目当主に向け修行を重ねる、元サッカー選手の奥山武宰士むさしさん。焼酎の製造工程を学ぶべく、酒造所の中を見学させてもらいました。

酒造所の中に入ると、漂ってきたのはマイルドなさつま芋の香り。八丈島酒造のこだわりは、使用されるすべての芋を、八丈島産としていることです。各農家から届いた芋は、粉砕された後、麹によって発酵。泡立つその様子に、焼酎が“生きもの”であることを感じます。次に蒸留によってアルコールを取り出しますが、その温度をコントロールし、酒の個性を表現するのが、杜氏とうじ※の腕の見せどころ。その後3年ほど熟成させることで、まろやかな香りに仕上ります。八丈島酒造の焼酎は、品種が異なるさつま芋をブレンドするため、毎年少しずつ味が変わるといいます。

見学の後は、お待ちかねの試飲です。八丈島酒造では国産丸麦を使用した麦焼酎、芋と麦をブレンドした焼酎も人気。参加者は「江戸酎」「島流し」「八重椿」「一本釣り」の4銘柄から、好みの一杯を探していきます。参加者からは、「九州の焼酎と違って甘みがある、おいしい」という声も。ツアーには八丈島在住の方も参加しており、皆で美味しいお酒を片手に持ち、いつの間にか歓談していました。

八丈島の焼酎は、江戸時代末期に島流しにされた流人るにん※によって伝えられたそうです。長い歴史の中で受け継がれてきましたが、徐々に酒造所は減っており、現在は島内に4件のみ。さつま芋の生産者も減少していることから、奥山さんたちは自ら栽培することにも挑戦しています。伊豆諸島の他の島と連携した島焼酎のブランディング、通信販売による販路拡大にも積極的に取り組んでおり、こうした努力によって地場産業が守られていることがわかりました。

※杜氏…酒造の職人の責任者
※流人…流罪の刑に処せられた人

自然が織りなす神秘を歩く 「ポットホール散策」

市街地に位置する八丈島観光協会から、車で約1時間。次に向かったのは、「ポットホール散策」。ポットホールとは、長い年月をかけて形成された甌穴群おうけつぐんのこと。岩盤を流れる沢にできる大小のくぼみで、中には人一人がすっぽりと入るサイズのものもあり、その稀有な光景が観光客を魅了します。

車を降り、橋の上から一行が目にしたのは、岩肌を流れる美しい沢。島の自然に精通するガイドの島田努さんによると、つなぎ目のない一枚岩が、約500mも続いているといいます。ポットホールの原型は、岩肌にできた小さな穴。ここに小石が溜まり、それらが長い年月を経て水流により回転することで、徐々に穴を広げていくのです。石が岩盤を削るのは、100年間でわずか1cm。気の遠くなるような微細な現象により、ポットホールは生まれます。

八丈島には10本の沢にポットホールが730個発見されており、日本では2番目に多いそう。沢沿いの散策路を進むと、そこかしこに繁茂するコケを、木漏れ日が美しく照らします。自生するスダジイという高木は、黄八丈の黒糸の染料にもなるとのこと。島の自然と人々の暮らしのつながりを知ることができるのも、ポットホール散策の魅力です。

神秘的なポットホールは、地質、水量、沢の傾斜など、数々の偶然が重なった自然の賜物。今回訪れた「こん沢林道甌穴群」は、八丈町の天然記念物に認定されており、住民の人々により大切に保護されています。

散策を終えると、すっかり夕方になりました。ツアーではこの後、「リードパークリゾート八丈島」での星空観察も用意されていましたが、あいにくの曇天により中止に。明日のアクティビティに向け体を休めるべく、各自は宿へと戻りました。

島しょ地域の最高峰を目指す 「八丈富士トレッキング」

二日目の朝、参加者は再び八丈島観光協会に集合。ジャンボタクシーに乗り込み、「八丈富士トレッキング」に出発します。

八丈島は「八丈富士」と「三原山」の2つの火山により形成された、ひょうたん型の島です。今回のトレッキングは、標高854mの八丈富士の山頂を、7合目の登山口から目指します。案内をしてくれるのは、昨日に引き続き島田さん。トレッキングの前半は、高木帯を進む道で、トンネルのように生い茂る木々の中を、一列になって歩きます。山を登ること約30分、一面に海を望む絶景スポットに到着。三原山、神湊港、八丈島空港、海上には船の姿も見られ、参加者はダイナミックな光景に目を奪われます。

さらに登ると低木帯へと変わり、周囲を雲が包み始めます。火口を一周する「お鉢巡り」の道から入ると、気温は下がり、足場は険しい玄武岩に。道中には小さな洞窟があり、太平洋戦争中には日本軍の敵軍監視拠点として使用されたそうです。

登山口から歩くこと2時間弱。一同はようやく山頂へと到着しました。頂上から見下ろす直径400mもの火口は、息を呑むような迫力。火口というと岩肌を思い浮かべますが、八丈富士は火口としては珍しく、火口の中に木々が自生しています。1万年前に形成された火山の息吹を、目の前に感じることができます。

「お鉢巡り」の道を戻り、火口方面へ降りていくと、「浅間せんげん神社」が佇んでいます。海にある丸石に願い事を書き込み、神社まで運ぶとご利益があるといわれるパワースポットです。鳥居の奥にある御神木は、400年前の噴火で生き残ったと伝えられます。島にある保育園では、卒園遠足で神社を訪れるそう。島の子どもたちの並はずれた体力に、参加者たちは驚かされました。

八丈富士を下山した後は、「ふれあい牧場」で一休み。こちらも島を一望できるスポットです。牛たちに囲まれたのどかな場所で、トレッキングの疲れを癒しました。

八丈島の素敵な景色を、ずっと先まで残したい

アクティビティを終えた参加者に、今回の感想を聞きました。

「Instagramでツアーを知り、行ったことがなかった八丈島を選びました。八丈島酒造では、奥山さんのような若い方が酒蔵を守っていることに感動。登山は普段からするのですが、八丈富士は歩きながら海が見えるという、本土ではなかなか味わえない魅力がありました。現地ガイドさんとお話ししながら歩くのも楽しかったです。ブランディングや移住のサポートで若い方にもっと訪れてもらい、素敵な八丈島を守ってほしいと思いました」(北区在住)

「もともと離島が好きで、今回のツアーに参加しました。島寿司や明日葉などの料理はどこも美味しく、八丈島酒造の焼酎も楽しめました。黄八丈の織物体験はかなり難しかったのですが、日々仕事として作業をするに鶴牧さんには頭が下がります。もし自分が東京で仕事をしていなかったら、島に移住して地場産業の担い手になりたいと感じました」(江戸川区在住)

「八丈島出身なのですが、ツアーを通じて改めて焼酎や黄八丈に触れました。身近だからこそ意外と触れない、島の文化を見つめ直せてよかったです。今回訪れた本土の人に、八丈島の魅力を広めていただき、ファンを増やしてほしいと思います」(八丈町在住)

「初めて訪れた伊豆諸島ですが、まずは品川ナンバーの車が走っていることに驚きました。黄八丈の繊細な作業に感銘を受けた一方で、伝統工芸が保存されるためには、若い人にもっと魅力を発信していくべきだと感じました」(中央区在住)

島の人々の営みを、家族や友人に伝えてほしい

2日間にわたり行われた八丈島のエコツアーは無事に終了。運営に携わった東京観光財団の北村さんは、「伊豆諸島の中では比較的人口の多い八丈島ですが、豊かな自然が残されており、その恩恵を受けた衣食住が文化として根付いています。島民の方々の営みは、現地を訪れることで、初めて理解が深まるものと感じました。今回のツアーでは、参加者と住民の交流も生まれ、島の魅力が本土へと伝わるきっかけとなったのではないでしょうか。ぜひ家族や友人に、旅の体験談を共有していただけたらと思います」と、イベントを振り返りました。

こうして、大島、神津島、八丈島で行われた「東京島エコツーリズム」は、すべての行程を終えました。「あしたの東京プロジェクト」の最新情報は当サイトにて発信しますので、ぜひ楽しみにお待ちください。

八丈島のエコツアーにご協力いただいた事業者のみなさん

八丈島酒造合名会社

弊社は八丈島で採れたさつまいもを使い焼酎を造っております。
自社栽培しているさつま芋や地元農家さんのさつま芋。多種多様な品種を全てブレンドし、独特な味わいや、香りのする唯一無二の焼酎です。また、麹には麦を使っております。これも伊豆諸島独自の文化です。
是非、八丈島にお越しの際には本格芋焼酎の【江戸酎】をお楽しみください。

http://www.hachijojimashuzo.com/