自然と文化に触れながら、島しょ地域の明日を考える!
東京島エコツーリズム 開催レポート① 大島編

2022.12.08

2022年11月〜12月、「あしたの東京プロジェクト」の第二弾となるイベント「東京島エコツーリズム」が開催されました。美しい海と自然に恵まれる大島、神津島、八丈島を舞台に開催された同イベントは、それぞれの島の魅力を「学ぶ」「ふれあう」「楽しむ」「守る」をテーマに体感できるエコツアーです。本記事では、大島で開催されたツアーを中心に、イベントの様子をレポートします。

学び、ふれあい、楽しみ、守る。島しょ地域の魅力に触れるエコツアー

東京都には伊豆諸島と小笠原諸島、計11の島からなる島しょ地域があります。美しい海と独特の地形、古くから伝わる島の人の文化、それらを生かした地場産業など、本土では味わえない魅力にあふれた、個性あふれる島々です。一方で、島内では人口減少や過疎化が進行。働き手の不足や文化の継承が困難になるなど、さまざまな課題を抱えているのも事実です。

そこで「あしたの東京プロジェクト」では、東京都民の皆さまに、島しょ地域の姿を知っていただく「東京島エコツーリズム」を企画。「学ぶ」「ふれあう」「楽しむ」「守る」の4つをテーマに、魅力や課題を体感できるエコツアーを開催しました。

今回の「東京島エコツーリズム」は、大島、神津島、八丈島の3島にて、各日程で開催。各島のツアーは複数のアクティビティが用意され、自然、文化、歴史など、さまざまな視点から地域への理解を深めることができます。アクティビティへの参加費は無料で、ツアーにはお一人での参加からご家族やグループ、また島にお住まいの方まで、幅広い年齢層の方が参加されました。

ここからは2022年11月12日〜13日に開催された、大島のツアーの様子をレポート。大島のエコツアーは、巡るアクティビティが異なるA、B、Cの3プランが用意されており今回のレポートでは各プランを横断する形で、全てのアクティビティの様子をお届けします。

ダイナミックな火山島の地形を体感 「裏砂漠半日ツアー」

長い歴史の中、繰り返し発生した火山噴火により形成された大島。実は島そのものが一つの活火山であり、独特の地形と現地に生息する動植物は、地球のダイナミズムを教えてくれます。2010年には「日本ジオパーク」に認定され、景観や生態系が地元の人々によって守られています。

自然の息吹を間近に見られるのは、島中央に位置する標高758mの「三原山」。山頂付近に通じるトレッキングコースが複数用意されており、今回は「裏砂漠コース」を散策しました。現地の自然を解説してくれるのは、大島で30年以上ガイドを行うグローバルネイチャークラブの西谷香奈さん。植物や岩石の種類や特徴を知り尽くすスペシャリストです。

コースを辿ると、木々が織りなすトンネル状の一本道「こもれびトンネル」が現れ、ハチジョウイヌツゲ、ヒサカキといった、火山島に適応したさまざまな植物に出会います。こもれびトンネルを抜けると「いつか森になる道」へ。火山噴火により荒野となった地面から、月日をかけて再生された草原が広がり、やがては森を形づくる植物たちのエネルギーを感じることができます。

さらに歩みを進めると、黒い奇岩が立ち並ぶ「ジオ・ロックガーデン」に到着。1986年の噴火により流れた溶岩の痕跡に触れながら、遠方に広がる広大な砂漠、三原山の山頂を望むことができます。さらに進んでいくと、黒い世界が広がる絶景スポット「裏砂漠」にたどり着くことができました。ここではガイドの西谷さんから温かい明日葉茶が振舞われ、広大な景色を堪能しながらティータイムを楽しんだあと、一同は復路へと折り返しました。往復約4時間にわたるトレッキングでは、火山島の地形を五感で味わうことができました。

美しき大島の伝統衣装に触れる 「アンコさんに学ぶ大島」

Bプランの参加者が向かうのは、「アンコさんに学ぶ大島」です。大島椿製油所にて、「伊豆大島アンコ文化保存会」の立島夕規乃さんが、展示資料とともに解説をしてくれました。

「アンコ(あんこ)」とはもともと、目上の女性に対する敬称であり、「姉っこ」が転じて生まれたといわれます。例えば「まつこ」という女性であれば、かつては「まつこのアンコ」と呼ばれていたそう。現在、観光ポスターなどで私たちが目にするのは、大島の女性が着るアンコさんの衣装です。かすりの着物に前垂れ、頭に巻いた手ぬぐいが特徴で、この衣装を着た女性が「アンコさん」と呼ばれるようになりました。

大島でははるか昔、女性が水汲みやまき運びなどの労働に従事していました。この際の労働着がアンコさん衣装の原型であり、短い筒袖つつそで、幅広の着物、それを固定するたすきは、動きやすさに対応したものとなっています。昭和初期に観光ブームが起こった時、「茶屋」という施設で観光客をもてなしたアンコさんは、その素朴さと快活さ、独特の衣装の美しさから一躍人気に。観光ブームが去った現在も、大島を象徴する伝統文化となっているのです。

現在はハレの場のおしゃれな衣装として、地元の人々に親しまれているアンコさん衣装。しかし茶屋文化を最後に労働着としての機能が無くなっていったことから、徐々に文化が継承されなくなっているそうです。若者や島外の人たちに少しでもアンコ文化に興味を抱いてもらい、文化として受け継がれていくようにと、立島さんたちは資料の保存や勉強会の開催、観光や教育現場での発信に努めています。

名物・椿油の製造を体験 「椿油しぼり体験」

全ての参加者が行ったのは「椿油しぼり体験」です。大島独自の文化を体験できる「大島ふるさと体験館」に集合し、自らの手で椿油を製造しました。

椿油は、大島に原生するヤブツバキの種子から抽出される油。古くは照明として用いられていましたが、現在は食用油や美容オイルとして、島の名産品になっています。オレイン酸を主成分としていることから栄養価が非常に高く、さらりとした食感を楽しめる一品であり、スキンケアやヘアケアにも最適だと言われています。

今回、椿油しぼり体験をガイドしたのは、大島ふるさと体験館で館長を努める菊池清さん。基本的な製油方法を解説後、さっそく椿油しぼりスタートです。

まずは椿の種を潰す作業。臼に入れた殻の硬い種を、きねで力を込めてすり潰していきます。粒はふるいにかけることによって、粗いものと細かいものに選別。全てが細かくなるまで、何度も潰さなければなりません。想像以上の力仕事に、参加者も少しバテ気味に。仕上がった細かな種をせいろで蒸すことで加熱したのち、機械によって圧搾。抽出された油を取り出して水分を飛ばせば、椿油の出来上がりです。

体験会の最後には、ピーマン、パプリカを椿油で炒めて試食。各工程で活躍を見せた子どもたちは、自分でつくり出した椿油の味に大満足の表情を浮かべていました。

手に届くような満天の星空へ 「星空観察」

日中のアクティビティを終えた参加者たちは、夜8時に再び集合。バスに乗って「星空観察」へと出発します。市街地である元町から、山奥へ進むこと約15分。たどり着いたのは四方を森に囲まれた「マイアミ球場」です。

広大な球場にブルーシートを敷いて、参加者たちは寝そべります。すると空一面に、無数の輝きを放つ満天の星空が。思わず声を上げる人もいたほどでした。星空を解説してくれたのは、現地ガイドの粕谷浩之さん。ユーモアを交えながら豊富な知識で、参加者の理解を促してくれます。

この日に見ることができたのは、秋の星座が中心。カシオペヤ座やはくちょう座、ぎょしゃ座をはじめ、北極星やすばる(プレアデス星団)、夏の大三角形、織姫と彦星、天の川などがレーザーポインタで示され、大人から子どもまでわかりやすく学べるように工夫されていました。美しい星空が見えるのも、自然に囲まれ街灯が少ない、島の恵みなのでしょう。

自転車を走らせ絶景を満喫 「伊豆大島サイクリングツアー」

二日目の朝、参加者は元町港に集合。最後のアクティビティである「伊豆大島サイクリングツアー」の始まりです。コースは島の北西部で、所要時間は4時間程度。初心者でも無理なく楽しめる速度で、のんびりと景色を満喫します。

往路は主に「サンセットパームライン」と呼ばれる海岸沿いの道。潮風を浴びながら爽快に走る道中では、海の向こうに伊豆半島を望むことができます。途中、火山島の特徴が見られる「長根岬」「赤禿あかっぱげ」「野田浜」などに立ち寄り、昨夜の星空観察に続いてガイドを担当した粕谷さんが、イラストを用いながら特徴を解説。さらに、幸運にもウミガメの姿を見かけることができました。

途中、牧場「愛らんどファーム」及び「ぶらっとハウス」に立ち寄って休憩。酪農が盛んな歴史を持つ大島で、牛乳をふんだんに使用したソフトクリームを味わいながら、のんびりとしたひと時を過ごします。復路は、ツバキやアシタバといった植物が生える内陸コースをサイクリング。人々が暮らす地区を眺めながら、元町港に帰ってきました。

島で出会った自然や文化を、本土の人にも伝えたい

アクティビティを終えた参加者に、今回の感想を聞きました。

「大島には行ったことがなかったので、家族4人でツアーに応募しました。三原山(裏砂漠)は、まるで日本ではない場所のようで刺激的でした。椿油に食用があるなど知らないことも多く、ガイドさんの解説もユニークでわかりやすかったです。いずれ移住もいいなと感じました」(世田谷区在住)

「エコツアーのような機会がないと、なかなか島しょ地域には行かないので参加しました。アンコさん文化や椿油しぼりを通じて大島の歴史について理解でき、島の人々の暮らしにも関心が高まりました。文化が消えてしまうのは残念なので、東京都に住む人たちに一人でも多く伝わり、文化保存につながると良いと思います」(足立区在住)

「旅行が好きで、大島や式根島にも行ったことがありました。ゆったりした時間の流れ、同じ東京都とは思えないような自然が大島の魅力です。『電子しまぽ』という地域通貨など、情報化やブランディングにも積極的なところも素敵でした。地場産業の後継者不足など、島が抱える課題についても理解が深まったので、知人にも共有したいと思います」(杉並区在住)

最も近い島しょ地域・大島に、気軽に足を運べるようになってほしい

2日間にわたり行われた大島のエコツアーは無事に終了。運営に携わった東京観光財団の川島さんは、「火山島である大島は、水資源が乏しいなど生活に工夫が必要です。島の人々はこうした自然環境の中、独特の産業と文化を育んできました。しかし現在、人口減少と高齢化を背景に、そうした伝統が失われつつあるのも事実です。東京都の人々にこのことを知ってもらい、周囲やSNSで伝えていってもらう。そうしたサイクルが生まれれば、島の課題解決にも貢献できるかもしれません。今回のツアーがその一助になれば、私たちも嬉しいです」と、イベントを振り返ります。

「東京島エコツーリズム」はこの後、神津島、八丈島へと続きます。少しでも多くの人に現地の様子を知ってもらえるよう、当サイトでは引き続き情報発信に努めていきます。ぜひご覧ください。

大島のエコツアーにご協力いただいた事業者のみなさん

オレンジフィッシュ

当店では5歳から楽しめるシュノーケリングや、体験ダイビング等の海ツアーの他、大人気の星空ツアー、火山島の魅力を満喫出来る陸上ツアーなど、子供から大人まで楽しめる自然体験型ツアーを多数ご用意しています♪

https://www.orangefish.tokyo/

グローバルネイチャークラブ

伊豆大島で海のツアー(ダイビング)を30年以上、陸のツアーを10年以上続けてきた店です。
スタッフは伊豆大島の自然が大好き。変化を続ける火山の島で、お客様と一緒に、一期一会の景色や生き物たちとの出会いを楽しんでいます!

http://www.global-ds.com/

大島椿株式会社

大島椿と美大生がアートの視点から「伊豆大島と椿」の魅力を発信する作品の展示会を開催します。

・開催場所:オレンジギャラリー ORANGE GALLERY
・アクセス:豊島区西池袋1-9-11-103
・開催時間:11:00~19:00
・開催期間:1/27(金)~1/31(火) 休廊なし
・作品点数:20点ほど

【展示会URL】https://netamatch.com/PressReleaseDetail/810/
【大島椿株式会社HP】https://www.oshimatsubaki.co.jp/